26日にあった日本野球機構(NPB)のプロ野球ドラフト会議の3日前、実は別のドラフトも行われていた。実施したのは「ベースボール・ユナイテッド」なる野球の新リーグ。主な拠点は中東で、日本選手も指名された。ただ、中東の野球熱はさほど高くないはずだ。新リーグ創設の思惑は何なのか。(宮畑譲)
◆元メジャーリーガ-、NPB経験者も指名
新リーグのドラフトでは、米大リーグの元スター選手が複数指名された。メジャー通算2639安打、335本塁打をマークしたロビンソン・カノ内野手、通算247勝のバートロ・コローン投手らがそうだ。前者は41歳、後者は50歳で、選手として高齢ではある。
日本のプロ野球経験者としては、ロッテなどでプレーしたブランドン・レアード内野手のほか、元DeNAの平田真吾投手、元阪神の福永春吾投手も。福永投手はSNSで「人生2度目のドラフト指名大変光栄に思います!」としながら、現在は台湾の球団と契約していることなどを理由に不参加の意向を表明した。
◆オイルマネーを背景にプロスポーツが加熱
新リーグは米国の事業家、カッシュ・シェイク氏が創設し、大リーグ歴代最多セーブを誇るマリアノ・リベラ氏らが共同出資者に名を連ねている。
シェイク氏にインタビューした日本貿易振興機構(ジェトロ)の山村千晴氏によると、アラブ首長国連邦(UAE)の2チーム、インド、パキスタンの各1チームの計4チームで発足。11月にはドバイで「オールスターショーケース」と称する試合を予定し、来年には8チームで65試合のシーズン開催を構想する。
中東では昨今、オイルマネーを背景にしたプロスポーツの隆盛が目立つ。
サウジアラビアのサッカーリーグにはブラジル代表のネイマール選手が加入。Jリーグでもプレーした元スペイン代表のイニエスタ選手はUAEのクラブに移籍した。ゴルフでもサウジの政府系ファンドが支援する「LIV招待」がある。両競技とも、高額な年俸や賞金が話題となった。
◆プレーヤーは少ないが観戦者は「相当数」いるとか
かたや野球の新リーグは事情が異なるようだ。
先の山村氏によれば、創設者のシェイク氏は米国で小学校から大学まで野球をしていた。その後、マーケティングに従事し、中東各地を担当した。その経験から「野球は自身の情熱そのもの。文化とビジネスを中東に広げたい」と思い描いた。
中東で野球をする人は少ないが、観戦するファンは相当数いて、環境は整っているとシェイク氏は分析。「中東と南アジアの人口を合わせると20億人に上り、(野球と似ている)クリケットも普及している。そのファンの取り込みも期待できる」という。
◆ステップアップ目指す場になる可能性も
中東における野球ビジネスに勝算あり、ということなのか。選手の契約内容が気になるところだが、日本球界にとって新リーグはどんな存在になりそうか。
スポーツジャーナリストの鷲田康氏は「子どもがプレーする機会がなくては、その国のポピュラーなスポーツとはいえない。中東の野球はそういう環境にない。日本や米国のようになるには相当時間がかかるだろう」と予測する。
一方、リーグのレベルが上がれば、選手のステップアップのための場になりうるとみる。「中東のリーグから日本のプロ野球や米メジャーに進む選手が現れれば、武者修行の場、選手供給源となる可能性はある」