ロス五輪に採用「フラッグフットボール」 喜びより危機感 強化に課題:東京新聞 TOKYO Web

 五輪に初採用されて「喜び一色」かと思いきや、そうでもなかった。

五輪出場へ向けて意気込む(左から)植松遼平、近江佑璃夏、岩井歩監督=東京都内で

 フラッグフットボール。10月の国際オリンピック委員会(IOC)総会で2028年ロサンゼルス大会の追加競技に決まり、東京都内で行われた日本の関係者による記者会見を取材した。アメリカンフットボールから派生したこの競技が日本に上陸して25年。普及に奔走してきた出席者が次々に感慨を口にする中で、男子日本代表主将の植松遼平(千里山ブラックジャガーズ)の言葉が印象深い。

 フラッグフットボール アメリカンフットボールからタックルなどの接触プレーをなくして安全性を高めた球技。楕円だえんのボールをランやパスで敵陣に運ぶと得点になるのは本家と同じ。1チーム5人で対戦し、腰からぶら下げたフラッグを奪って相手の攻撃を止める。100カ国以上で約2000万人がプレー。2022年の日本選手権には220チーム、約2600人が参加した。入念に作戦を立てて遂行するのが重要なため、思考力やコミュニケーション力を育むとして学習指導要領に含まれ、多くの小学校が取り入れている。

 「ここで喜んでいる暇は本当に1分1秒もない。いま一度気を引き締めたい」

 危機感をあらわにしたのは、五輪競技となっても日本がその舞台に立てるかどうかは別問題だからだ。直近の21年の世界選手権で男子11位、女子6位だった日本は、世界の勢力図で「中堅」に位置する。五輪の出場枠は男女各6チームの見通し。狭き門に阻まれれば、認知度を上げる千載一遇のチャンスをふいにしかねない。

 会見では、競技を取り巻く環境が垣間見えた。男子代表の岩井歩監督は、代表チームでさえ数年前まで練習場所の確保に苦労したと明かす。遠征費の一部は選手の自己負担。スタッフも足りず、監督が練習の撮影係など何役もこなしてきたという。

 女子代表の近江佑璃夏ゆりか(Blue Roses)は、会社員として週5日みっちり働いた上で、平日夜と週末をトレーニングに充てているそうだ。「この生活を五輪まで続けられるか」と不安を明かしつつも「やらないと世界にはかなわない」と決意している様子だった。

 協賛企業などの支援で環境は改善しているものの、不十分。「五輪競技として羽ばたいていくために、これが必要なんだと訴えていかないと」と岩井監督は強調する。ただし、求めるばかりではない。「環境の充実と同時に、ふさわしい取り組み、選手の自覚がいよいよ必要になる」と責任感もにじませていた。

 日本では学校教育の一環として多くの小学生が親しんでおり、「裾野」は着々と広がっている。一方で「頂」に当たるトップレベルの強化は、かねての課題。五輪への挑戦権を得たことで、スピーディーにその宿題をこなさなくてはならなくなった。

 「固有の知見と技術が必要な競技。1年や2年でトップまでたどり着くのは難しい」と岩井監督が認めるように、育成と強化は一朝一夕にいかない。残された時間は長いようで短い。(高橋淳)



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